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首絞め強盗に遭う en Madrid

おことわり: この話は1999年当時のもので、強盗も減りつつあります。スペインにおける強盗被害は、在スペイン日本国大使館領事部によると、2001年は263件、2003年は80件と急減しています。ただし、減ってはいますがゼロではありませんのでご注意を。そのかわり大都市以外はとても安心して歩けるというのが実感です。

強盗に遭う前夜

ALSA Clase Supra

この日は、Gijónから高速バスでMadridに帰ってきました。スペインの高速バスがこんなに便利だと知る前で、切符の取り方がよく分からなかったりして、いつのまにか"Clase Supra"の席を取ってたのを日本に帰ってから気付いたり。さすが特等のバスはイケメンのお兄さんが(まぁ、私はときめきませんが)2時間おきにお菓子と飲み物を持ってきてくれたり、お土産にロゴ入り南京錠を配ったりしてくれました。Madridに着いたのが夕方8時位だったので、4・5軒のホテルに断られた後で、León通りの"Casa Blanca"という1,500ptsくらいの安宿を見つけました。それまで約1週間、ずっと1,000から2,000ptsの安宿だったので、最終日のスペインの宿泊はちょっと豪華にしよう、と思ってその晩のうちにPlaza Mayor隣の"Hotel Plaza Mayor"(5,900pts)に翌日の予約をしました。その日の宿もやっと取れ、最終日の宿も取れたので、私はすっかり一安心。

当日、朝。首絞め強盗に遭う

もう残す旅も丸一日。さて、最後だ、今日はどうしようかなぁ、って感じで起床。荷物があるので、まずはその日の宿として前日に予約をしてあった"Hotel Plaza Mayor"に荷物を預けに行きました。私の持っていた荷物はちょっと大きめなリュックサックにB5くらいのポーチ、財布はズボンの尻ポケットにありました。

ここで話は別になりますが、スペインの時間と日本の時間は、実際の時刻と感覚が異なります。日本では9時というと早朝ではありませんが、スペインではまだ早朝という感じです。街に人もまばらですし、BarやCafeteríaも開店準備中だったりします。なので、日本の感覚で言うと、朝の6時か7時くらいに荷物持って歩いていた訳です。大体日本と2・3時間ずれてると思うとイイカンジです。

荷物を引いて歩いていると、一瞬後ろから肩を叩かれたような感じがしました。なぜかウキウキしていた私は、なんでだか「誰か知り合いが声をかけて来た?」と振り返ると(...なんでそう思ったのかは今でも分からないんだけど)、男3人組に襲われました。一人が私の首を腕で絞め、もう一人がリュックを、もう一人がポーチと尻ポケットの財布をムリムリに剥がしていきます。無意識に抵抗しようとしましたが、首を締められてオチてしまいました。

運良く(?)オトサれた直後に正気に戻りましたが、もうそのときには3人組は私の15m前くらいを走り逃げています。彼らを追いながら、恥ずかしいとか言っていられないので「Ladrón」と大声で叫びました。彼らも上手に逃げるもので、途中で路上駐車の下にリュックを投げ捨て、私がそれを拾う間に差をつけ、ポーチを腹の服の下に隠しながら逃げました(と、Cafeteríaのお姉さんがジェスチャーで教えてくれた)。最後に3人組は十字路をバラバラに曲がって去っていきました。こうなったらもう追っかけようがないや。あらあら、どうしよう?

警察に行こう!

結局取り戻したのはリュックサックだけ。その中には洋服しか入っていないのよ。すなわち、パスポート、現金、クレジットカード、帰り分のエアチケット、ガイドブック、辞書、カメラ、旅の日記、大事そうなものは全部盗られています。

警察に行って盗難証明をもらわなければ何も始まらないや、と気付いた私はCasa Blancaに戻り、訳を話して宿泊者台帳からパスポート番号のメモをもらいました。それと落ち着くための水を一杯。

Plaza Mayorまで出て警察を探しました。最初はオフィスビスの前にそれっぽい人がいたので話し掛けたら、そこの警備員のオジサンでした。

広場に銃を持ったひどく恐ろしげな人がいるので、これがおまわりさんだろうと思って声をかけたら、治安警備の武装警察官で、「それなら市警察に行きなさい」とのこと。後で知りましたが、スペインの警察組織は4種類あり役割が異なるんですね。一通り場所を聞いて時々他の人にも場所を聞きながらたどり着いたら、「盗難証明は別の警察署で...」と言われてまた歩く。やっと着いて盗難届を出す旨話したら、日本語の盗難届がありました。多いのね、私みたいな人が...

盗難届(表)盗難届(表面) 盗難届(裏)盗難届(裏面)

待っている間、おまわりさんに向かって、「タバコ1本ください」...(゚Д゚)y─┛~~プッハー

次は日本大使館だ。

無事、盗難証明書ももらえました。さて、次は日本大使館に行かなきゃいけない。何せコッチは翌日が帰国日。パスポートも銭もエアチケットもないから、帰ろうにも帰れない。...ちょっと待てよ、そもそも日本大使館の場所知らないし。

当日予約してあった"Hotel Plaza Mayor"にテクテク歩いて訳を話し、日本大使館の場所を調べてもらい、電話をかけてもらいました。大使館曰く、「タクシーで1,000ptsくらいかかるが、一時的に日本大使館が払うので、それに乗って来てください」とのこと。到着すると窓口にはスペインの男性がいましたが、日本人のおばさんが対応してくれました。そこでひとまずクレジットカード会社に電話して、カードの利用を停止してもらいました。よくよく考えたら、カード番号16桁の一部しか思い出せなかったのによく本人だと認めてくれたもんですね。さて、大使館曰く「パスポートを盗られたのだから、『帰国のための渡航書(Travel Document for Return to Japan)』というものを発行します。ただし、お金が2,900ptsかかります。費用は本人負担です。」

渡航書発行の領収書

「また、帰国のための渡航書を発行するためには、あなたが明日間違いなく帰れるという証明がなければいけません。すなわち、エアチケットがなければダメ、ということです」...お金もチケットも盗られた私にとっては大ショック。キャッシングしようにもクレジットカードないし。カード会社に電話したら、即日入手できる仕組みはありませんでした。おばさんが「あなたの旅行会社はどこなの?」と聞かれハタと思い出しました。そういえばMadridに支店がある旅行会社だった。ちょっと光明が見えてきた感じです。

旅行会社のMadrid支店に電話して、また訳を話すと、駐在員のお兄さんが大使館まで来てくれました。そこで一度旅行会社の事務所に行って作戦会議をすることになりました。大使館曰く「3時過ぎると閉まっちゃうから、それ過ぎたら翌日になります」...結構ギリギリ。おばさんは「3時半までなら特別に待っています」とのこと。ありがたいやらお役所やら。ま、この場合はありがたいと思いましょう。

帰国に必要なものをそろえる

事務所はMadridの中心地のビルにありました。駐在所長さんと話をし、駐在員の方といろいろな段取りをすることになりました。

まずは、日本の事務所からエアチケットのコピーをもらって、それをもってオーストリア航空のMadrid事務所に訪問です。エアチケットの再発行をしてもらいます。日本大使館で聞いた話では、20,000ptsくらいの再発行手数料がかかるらしかったのですが、結局お金はかからず、チケットをもらうことができました。

そのとき撮ってもらった写真

次は写真です。帰国のための渡航書を発行してもらうためには、本人の写真が必要です。そんなもん持ってるはずもなく、街中の写真店を探します。でも、そのときはちょうど午後2時くらいで個人商店はみなSiestaで店を閉めています。こんなときにはSiestaしない百貨店に行くしかありません。El Corte Ingrésの地下に写真店がありました。ヤレヤレ、と思ったのもつかの間、写真店のオバチャンは「日本人の写真は、スピード写真じゃダメだ!日本大使館にそう言われている!」の一点張りで写真撮影を拒否します。「ええぇぇ!何それ!?写ってりゃなんでもいいじゃん!」と再度日本大使館を恨みましたが、実はその当時広まりつつあったいわゆる「デジカメ写真を印刷したもの」がダメ、ってことだったみたいで、一般のスピード写真はOKでした。オバチャンはなにやら不満げでしたが。

やっと必要なものが揃ったか、と思ったらあとはお金が必要です。最低限考えて、「帰国のための渡航書発行手数料」「その日のホテル代」「翌日の空港行きのタクシー代」「食事代」が必要です。旅行会社の駐在所長さんにお願いして20,000pts借りました。快く貸してくれてありがとうございます。

早速日本大使館へ。約束の時間をちょっと過ぎましたが、大使館のおばさんがいてくれて、無事「帰国のための渡航書」をもらうことができました。2つ折の厚紙に写真が貼ってあるような感じの質素なものでした。帰り道専用のパスポートなわけです。Hotel Plaza Mayorから日本大使館に行くまでに利用したタクシー代金もそこで支払いました。

無事に必要なものを揃ったので、当初の予定通りHotel Plaza Mayorに戻りました。帰りのタクシーではホテルの前まで車をつけて欲しかったのですが、途中で運転手さん曰く、「俺はこれからメシを食うので、ここで曲がりたいからここで降りろ」「やだ、ホテルの前まで行ってくれ」「やだ、メシ食う、降りろ」「やだ、行って」「やだっつってんだろうが!」...降ろされました。スペイン恐るべしという考えが脳内に充満している私にとって、ホテルまでの徒歩は恐怖の3分間だったことでしょう。

ホテルのお兄さんにも無事帰国の目処が立ったことを報告して大使館への段取りをしてくれたお礼をしたかったのですが、フロントの担当が別の人に代わっていました。

帰途

その日はホテル籠りきりで、翌日早朝にとっととBarajas空港にタクシーで直行です。帰りの飛行機の中ではずっと落語を聞きながら過ごしました。成田に着いて両替したら、お札しか両替できなくて、小銭はペセタのままでした。2,000円くらいしかないので、神奈川の自宅までは高速道路を使わずにずっと一般道に乗って帰りました。

結局、クレジットカードの被害もなく、金銭的にはそのとき取られた現金だけの被害で済みました。とても貴重な体験ができましたが、できればもう遭いたくないなあ。下手をすると殺されちゃったりするし。でも次に遭ったときには前回より「上手に」段取りできそうですけど。

私のパスポートは、悪い人の役に立ったのでしょうか。どんな使われ方をしたんだろう、と思うとちょっとドキドキです。